2007年 12月 14日
木造耐力壁ジャパンカップ |
木造耐力壁ジャパンカップ決勝トーナメントの決勝戦は、すごい壁同士のすごい戦いになりました。
予選は耐震性(最大耐力でなく吸収するエネルギー量)や審査点、施工性、材料費、環境負荷費等を総合的に勘案したポイント制だけで争われますが、決勝はポイント制でジャパンカップを争うだけでなく、予選を突破した8体が、2体ずつ引き合い、相手が壊れるまで無傷かジャッキを引ききった時の変形が少ない方が勝者として勝ち抜いて行くトーナメント勝者を争う場でもあり、こちらは最大耐力勝負の争いです。
左のポラスの壁「短足の行進」は、6本の柱の全てが横材ごとにぶつ切りになった短柱で、それぞれ横材へのほぞ差しで圧縮側の変形に抵抗します。引張に対しては、土台の下に敷いた厚さ9ミリの鉄板に溶接した16φの鋼棒を各柱2本ずつ桁まで通し、桁の上にこれまた分厚く大きな座金にボルト締めして、何がどうなっても引張では壊れないようにしてあります。
対する右のジャーブネット(稲山研)の「イタラー」は、土台と桁およびそれらに沿わして配置した板に対して、表裏計8枚の30ミリ厚の板をビス40数本(1枚あたり)で打ち付けて固定し、更に接合部に接着剤を併用して、8枚の板をそれぞれにラーメン的に働かせる耐力壁です。
さてこれらの引き合いは、引き始めから全くの五分、冗談のように同じように荷重変形曲線が立ち上がって行き、ジャッキを引ききるところまでいっても変形も同じくらいということで、もりかえを一度行って再度引ききって、ようやく勝負がつきました。
勝負がついた後、短足の行進を単独で引いて壊しましたが、そのときの最大耐力は60kNを超え、安藤邦廣先生をして「木造耐力壁の限界だ」といわしめるものでした。
ところでここで思うことはみな同じかもしれません。それってすごいけど、果たして「木造」耐力壁なのだろうか、と。
いみじくも壁紹介のアナウンスの中で稲山さんが「ターミネーター対エイリアン」と表現したように、どちらも些か木造耐力壁ばなれした壁です。施工の様子を見ていても、短足の行進では10センチピッチで並び立つ鉄筋に上から柱と横架材を交互に差し込んで行く様は、補強コンクリートブロック造(この場合補強木ブロック造ですが)のようでしたし、イタラーにしても、300本を超えるビスをひたすら打ち続ける傍らでぺとぺと接着剤を塗っている様は、とても木造の現場とは思えません。どちらもそのパネルを工場生産して現場で組み立てるのが適した工法のようでした。
そもそもこのジャパンカップの最初は、使える金物の量や材積を制限して、限られた中でどれだけ強い壁ができるか、を競うところから始まりました。丁度阪神淡路大震災の後、木造は弱い、という風評に逆らって金物をいっさい使わない壁がトーナメント優勝を果たしたときには心から喝采を送ったものでした。一方で、もっと自由に色々な材料を使いたい、という要望や、壁をつくるからにはただ強さだけを競うのでなく様々な性能をバランスさせることをあらそうべき、ということあって、数年前から材料は(概ね)自由(麻縄やガラスも参加したことがあります)、争うのは総合ポイントとトーナメント、という仕組みが決まってきたと聞いています。
確かに「木造」の定義は難しく、自由な発想を促す為にはこうしたルールも理にかなっていると思いますが、ジャパンカップの目的が、勝負を楽しむ、新しいアイディアを具現化する、ということのほかに、日本の文化としての木造を未来につなげていく、こともあるのであれば、今後またレギュレーションを見直していってもよいかな、と思いました。
壁としてみた場合、(あくまで個人的な視点ですが)短足の行進、短い柱をほぞ差しにするだけで変形に抵抗するアイディアは秀逸だと思いました。予選のときは引張に抵抗する鋼棒が1本だけだったので殊更にアイディアが光りましたが、決勝の、土台と桁を鋼棒12本で結ぶ、というのは新しいアイディアとはいい難く、残念に思いました。
イタラーは、木造耐力壁を強くして行くときのセオリー、如何に接点を多くし力を分散させるか、ということを突き詰めて(ビスの配置、種類の選定等まで含めて)行った結果とみると、確かに木造耐力壁の限界の一つなのかなと思いました。
また来年、新しい壁の新しい戦いが楽しみです。ところで来年はどなたか一緒に参加しませんか。
予選は耐震性(最大耐力でなく吸収するエネルギー量)や審査点、施工性、材料費、環境負荷費等を総合的に勘案したポイント制だけで争われますが、決勝はポイント制でジャパンカップを争うだけでなく、予選を突破した8体が、2体ずつ引き合い、相手が壊れるまで無傷かジャッキを引ききった時の変形が少ない方が勝者として勝ち抜いて行くトーナメント勝者を争う場でもあり、こちらは最大耐力勝負の争いです。
左のポラスの壁「短足の行進」は、6本の柱の全てが横材ごとにぶつ切りになった短柱で、それぞれ横材へのほぞ差しで圧縮側の変形に抵抗します。引張に対しては、土台の下に敷いた厚さ9ミリの鉄板に溶接した16φの鋼棒を各柱2本ずつ桁まで通し、桁の上にこれまた分厚く大きな座金にボルト締めして、何がどうなっても引張では壊れないようにしてあります。
対する右のジャーブネット(稲山研)の「イタラー」は、土台と桁およびそれらに沿わして配置した板に対して、表裏計8枚の30ミリ厚の板をビス40数本(1枚あたり)で打ち付けて固定し、更に接合部に接着剤を併用して、8枚の板をそれぞれにラーメン的に働かせる耐力壁です。
さてこれらの引き合いは、引き始めから全くの五分、冗談のように同じように荷重変形曲線が立ち上がって行き、ジャッキを引ききるところまでいっても変形も同じくらいということで、もりかえを一度行って再度引ききって、ようやく勝負がつきました。
勝負がついた後、短足の行進を単独で引いて壊しましたが、そのときの最大耐力は60kNを超え、安藤邦廣先生をして「木造耐力壁の限界だ」といわしめるものでした。
ところでここで思うことはみな同じかもしれません。それってすごいけど、果たして「木造」耐力壁なのだろうか、と。
いみじくも壁紹介のアナウンスの中で稲山さんが「ターミネーター対エイリアン」と表現したように、どちらも些か木造耐力壁ばなれした壁です。施工の様子を見ていても、短足の行進では10センチピッチで並び立つ鉄筋に上から柱と横架材を交互に差し込んで行く様は、補強コンクリートブロック造(この場合補強木ブロック造ですが)のようでしたし、イタラーにしても、300本を超えるビスをひたすら打ち続ける傍らでぺとぺと接着剤を塗っている様は、とても木造の現場とは思えません。どちらもそのパネルを工場生産して現場で組み立てるのが適した工法のようでした。
そもそもこのジャパンカップの最初は、使える金物の量や材積を制限して、限られた中でどれだけ強い壁ができるか、を競うところから始まりました。丁度阪神淡路大震災の後、木造は弱い、という風評に逆らって金物をいっさい使わない壁がトーナメント優勝を果たしたときには心から喝采を送ったものでした。一方で、もっと自由に色々な材料を使いたい、という要望や、壁をつくるからにはただ強さだけを競うのでなく様々な性能をバランスさせることをあらそうべき、ということあって、数年前から材料は(概ね)自由(麻縄やガラスも参加したことがあります)、争うのは総合ポイントとトーナメント、という仕組みが決まってきたと聞いています。
確かに「木造」の定義は難しく、自由な発想を促す為にはこうしたルールも理にかなっていると思いますが、ジャパンカップの目的が、勝負を楽しむ、新しいアイディアを具現化する、ということのほかに、日本の文化としての木造を未来につなげていく、こともあるのであれば、今後またレギュレーションを見直していってもよいかな、と思いました。
壁としてみた場合、(あくまで個人的な視点ですが)短足の行進、短い柱をほぞ差しにするだけで変形に抵抗するアイディアは秀逸だと思いました。予選のときは引張に抵抗する鋼棒が1本だけだったので殊更にアイディアが光りましたが、決勝の、土台と桁を鋼棒12本で結ぶ、というのは新しいアイディアとはいい難く、残念に思いました。
イタラーは、木造耐力壁を強くして行くときのセオリー、如何に接点を多くし力を分散させるか、ということを突き詰めて(ビスの配置、種類の選定等まで含めて)行った結果とみると、確かに木造耐力壁の限界の一つなのかなと思いました。
また来年、新しい壁の新しい戦いが楽しみです。ところで来年はどなたか一緒に参加しませんか。
by ryo-oguchi
| 2007-12-14 15:53
| 建築のはなし